ライター:フィルムメーカー 杉野啓基 氏
2017年も寒い時期を経て、いよいよ健やかな春の到来です。外出の機会も増えるこの季節に、既に音楽フェスなど大規模なイベントへの参加を検討している方も多いのではないでしょうか。
今回のブログでは3月下旬にアメリカ・マイアミで開催された音楽フェス「ULTRA MIAMI」の様子とともに実際にDJI OsmoにZenmuse X5Rを搭載した「DJI Osmo RAW」を現地で利用してRAW収録した映像を紹介しつつ、機材の率直なレビューを記していきたいと思います。
世界24ヶ国で開催される世界最大級のモンスターイベント「ULTRA」。地球規模で活躍するDJやアーティストが、 華やかなステージ演出の中で時代の最先端をいく音楽をプレイします。会場の熱気や各地の風景を取り込んだアフタームービーもULTRAならではの特徴の一つと言えます。 ULTRAというイベントについて初めて知ったという方は、ぜひまずはこちらの映像をご覧ください。
ULTRA MIAMI 2016 Aftermovie
アフタームービーを制作しているのはオランダ・アムステルダムに拠点を置くFINAL KIDという会社でスタッフはオランダ出身者を中心にブラジル・オーストラリア・イギリス・アメリカ・日本から開催地や演出に合わせて都度召集されます。 多様な文化背景を持つクルーの中でアジア出身は僕とDJI製品だけなので、本レビューにもついつい力が入ってしまうというものです。
DJI OSMO RAWの活用
さて本題に戻ります。 映像制作の新時代を現在進行形で切り開いているDJIが、2015年にリリースをしたDJI Osmo。その最大の利点は携帯性と機動性にあります。
3軸のスタビライザーによるスムースなカメラワーク、タブレットやスマートフォンで直感的に操作できる「DJI Go」アプリのインターフェースやトリガー、そして優れたコストパフォーマンスとコンパクトなサイズ感は、人混みの中でも無理のない撮影が可能で、不要な時にはバッグに収納できます。プロだけでなくカメラ初心者にとっても使い勝手の良い設計となっています。機材のサイズや重量は旅先やアクセスの過酷な現場などの撮影環境では、機材選びの重要な判断材料となります。
次の映像はDJI OSMO RAWで撮った素材を再編集したものです。
しかし、プロ品質の画質を求めるクリエイターにとってDJI Osmoの標準カメラ「DJI Zenmuse X3」は60Mbpsというビットレートが示す通り、業務用カメラと併用して仕事現場で使う際には画質面で物足りないのが現実でした。
そこで高画質の映像を手軽に収録したい人にとって欠かせないのが、「DJI Zenmuse X5R」です。マイクロフォーサーズのセンサーを持つX5RはX3で60Mbps(7.5MB/s)だったビットレートがX5RのRAW収録では1.74Gbps(223MB/s)とおよそ30倍向上し、ダイナミックレンジもDSLRと匹敵するかそれ以上の公表値で12.8ストップという高画質を実現しています。
Zenmuse X5RのRAW収録による素材は、512GBのSSDに40分ほどしか録画できませんが、ダイナミックレンジを最大限に引き出す画質は特にカラーグレーディングの際に大きな利点となります。
上記の画像はパームツリーを逆行の条件下で撮影したものですが、パームツリーの幹部分の暗部と逆行の大空のハイライトを幅広く収録できているのが画像から見て取れます。 グレーディングでより最適な画質を得るために、ISO感度を低く収録することをお薦めしますが、簡素なセットアップで高品質な4K動画をロスレスで収録することができるのは素晴らしい限りです。
今回X5Rを用いて撮影をする前に、最も懸念していたことのひとつは夜の屋外シーンなどの低照度の環境下におけるカメラのパフォーマンスでした。しかしそんな心配もどこ吹く風。 Zenmuse X5Rはセンサーだけではなく、レンズ性能も非常に優秀です。
マイクロフォーサーズのため実質の焦点距離は30mmと少し寄り気味ではありますが、気になるようなディストーションはなく、F値は1.7まで開放できるため小型なカメラながら浅い被写界深度の映像表現も楽しむこともできます。
個人的に製品に対してあったらいいなと思った点としては、暗い環境でのオートフォーカスの精度向上、内蔵NDフィルターの搭載、スマホ以外のモニタとの互換性などですが、現時点でも基本性能に関しては大満足です。
音楽のグルーヴが国籍や文化的背景の異なる観衆達を調和するのと同じように、 映像も言葉や文化の壁を超えて人の心に訴えかけられる表現手段のひとつです。そしてその実現のためには、少しでも表現力を高め可能性を拡げられるZenmuse X5R、小型で直感的な操作ができプロクオリティの安定したカメラワークをできるDJI Osmo は新たな映像制作の在り方に一石を投じる、素晴らしいツールになり得ると今回の実体験を通して改めて確信を持つに至りました。
フェスやイベントなどかけがえのない瞬間を少しでも記憶と記録に残せる映像を撮る際には、是非ともZenmuse X5RとDJI Osmoのご利用を検討してもらいたいと思います。
DJI OSMO RAW
フィルムメーカー 杉野啓基
LAで映画製作を学び、メジャーから独立系までの様々な現場で経験を積む。 自身がプロデュース・監督を務めるドキュメンタリー映画「FREEDIM」は、中米・北米・アフリカ・日本の計5カ国で12年の月日を経て完成。2011年からの5年間は東日本大地震の被災地・石巻に住み込み記録活動を行うなど、常に独自の視点でメッセージ性を重視した映像表現を続けている。
2014年から ULTRA JAPANのアフタームービーのプロデュースも行っており、FINAL KIDのチームの一員として韓国、クロアチア、マイアミで開催されたULTRAにも参加する。ボルボやクリスチャンディオールなど国内外のクライアントから支持を得ており、日本を舞台に世界を視野に入れた映像制作を心がけている。
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